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「出会い系からオナカップまで」合理化が加速する"セックスメディア"は今後どうなる!?

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 荻上チキ氏と言えば『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『社会的な身体』(講談社現代新書)などでネット・カルチャーを主なフィールドとする気鋭の批評家だ。そんな彼が新たに目を向けたのが出会い系サイトなどアダルト産業。一見、これまでの仕事とはかけ離れた分野なようだが、これまで一貫して「メディア」に関心を寄せ続けてきた荻上氏だけに、新著『セックスメディア30年史』(ちくま新書)では、出会い系サイトからオナカップ・ラブドールといったものを遡上に乗せ、第一人者のインタビューを織り交ぜて、その興隆の秘密を解き明かしている。

 同書では、第3章を『何がエロ本を「殺した」か?』というタイトルにしているが、ここで思い出されるのが、2006年に刊行された、安田理央氏・雨宮まみ氏による共著『エロの敵』(翔泳社)である。安田氏は、この本のあとがきで、「エロの最大の敵は、エロが『価値を失ってしまうことだ』」と綴っていた。

 あれから5年を経て、エロの世界はどう変わったのか。そして、荻上氏の「セックスメディア」と安田氏の「エロ」の意味の違いは何か。荻上氏と安田氏に、じっくり膝を突き詰めて語って頂いた。

――そもそも荻上さんがアダルト産業にご興味を持たれた理由は何でしょう?

荻上 「だって男の子だもん」というのが第一の理由ですが(笑)、メディアそのものの栄枯盛衰がクリアに見えるのが何より面白いですね。安田さんの本からもすごく勉強させて頂きました。この30年、安田さんが書かれたように、雑誌のようにエロが衰退していく面もあれば、動画サイトのように、注目を集めてより発展していく部分もあった。僕自身、高校生まではエロ本を見てましたが、インターネットをはじめるとエロ本はほとんど読まなくなりました。そうした自分が見てきた風景、アダルト産業の移り変わりを、まずは当事者に聞きつつ、その背景にある産業構造を解き明かしたいという動機で『セックスメディア30年史』を書きました。

――安田さんは、荻上さんの本をお読みになられてどういう感想を持たれましたか?

安田 僕が不思議だったのは、何で雑誌を取り上げたのか、ということですね。他のものは発展途上なのに、雑誌だけ「終わった」話なので......。他の章は面白く読めたのですが、そこだけ悲しいんですよね。

荻上 確かに。ただ、「何が、何に変わったのか」という、機能の移り変わりを見るためには雑誌は欠かせなかったんです。今回の本では、意識的にコンテンツの話はせず、メディアやプラットフォームの話に特化しています。この本の構成は、第1章のテレクラと第2章の出会い系サイトが対応していて、第3章のエロ雑誌と第4章のアダルトサイトを対応させていて、プラットフォームとしてのエロ本だけに特化させていました。

安田 テレクラは出会い系サイトに発展しているからね。

荻上チキ氏。
荻上 そうですね。しかも、同じ業者が業種替えしたケースが多い。一方で、雑誌はサイトを作らないじゃないですか。サイト経由でも売れないという話ですし、版元のサイトにも宣伝ページすらないものさえ多い。だから、ビフォアーとアフターでうまくジャンプできたケースと、そうでないケースとして、悲しいけれど歴史として雑誌のことを取り上げる必要がありました。ただ、元気のないものの代表として出したのではなく、雑誌が今後を模索することに対する希望が、個人的に込められていたりするんです。

安田 実は『エロの敵』を書いていた時に、エロ本のところを書いていたら、全然明るい話がなかったんですよ。本当に辛かったね。どう考えても光明が見えないんだよ。

荻上 それでは、エロで文章を書く、という仕事もかなり影響があったのではないでしょうか?

安田 僕も風俗ライターは5年くらい前に廃業しているんですね。風営法の改正で風俗がデリヘルばかりになって、お店のシステムもほぼ一緒だし、書くことがなくなっちゃったんです。女の子のことだけになるとカタログ記事だけでいいし。

荻上 松沢呉一さんも、随分まえに「廃業」を宣言しましたね。エロサイトのレビューでも、これまでのライターとは違う文脈の人が書いていますし、CGMで情報が共有されるようになっていますからね。

安田 DMMアダルトのレビューでも同じだよね。一つの動画にたくさんレビューが掲載されているから、自分に合った情報を見つければいいだけで。

荻上 DMMアダルトには映画と同じく、「ネタバレ注意」というのがあって、動画のどこで何をしてるのか全部フローが書いてあるものもありますね。風俗店やAVメーカーのサイトも、女の子にブログ書かせたり動画を載せたり、メルマガで情報発信するようになっている。自前でなんでも用意できちゃうんですよね。

安田 ライターの居場所がなくなっちゃったんだよね。

――パソコン通信のころからネットの世界を知っていらっしゃって、ブログも人気の安田さんから見て、出会い系サイトやアダルトサイトはどう映っていらっしゃるのでしょう?

安田 さっき荻上さんがおっしゃっていたけれど、雑誌以外のところにはコンテンツがないんだよね。例えば「動画ファイルナビゲーター」の話も、メーカーが作ったものをもらってくるわけで。僕はエロコンテンツに興味があるんだよね。だから、出会い系も、どんなことがあったかという話が好きであって、データだけが欲しいわけじゃないんです。昔、松沢呉一さんと話していて、「風俗の仕事をやらなくなったら行かなくなるだろうな」と言われて「ええっ」と思ったけれど、実際に自分も仕事をやめたら行かなくなったんだよね。

荻上 なるほど。つまり、「抜き」より「語り」の方がウエイトが高かったんですね。

安田 そうなんだよね。結局、自腹で遊びに行ってもネタとして書きたいというのがあったので、ユーザーとはちょっと違ったんだな、と。僕の中でセックスメディアとして出会い系は入ってこないですね。セックスメディアとエロメディアでは全然違うじゃない?

荻上 実のところタイトルはずっと「アダルトメディア」と書いていたんですけれど、編集に「セックスと入れると売れますよ、と言われて変えたんですが(笑)。

安田 でも「セックスメディア」が正しいよね。

荻上 僕の本は、アダルトな隠微さを求めているひとの話ではたぶんないんですよね。快楽もさわやかな快楽で、TENGAも情報の透明化をしようという話がベースだったので、物語としても猥雑さをむしろ取っていく話でもありますね。

安田 言ってみれば、『エロの敵』は物語が死んでいく話で、荻上さんの本はエロから物語を切り離して軽やかになっていく話なんじゃないかな。荻上さんの本を読んで思ったんだけど、みんな「損したくない」というのがユーザーにありますよね。僕は古い世代の一番最後に属する人間だと思うんだけど、エロっていかがわしくて損をするのも含めてという意識がありますね。

荻上 例えば今では、「漫画実話ナックルズ」(ミリオン出版)などでは、こんな風俗嬢が出てきてがっかり、みたいな話がまだありますが、そういうのは少なくなりましたね。

安田理央氏。
安田 女の子の話はそんなに面白くない。ひっかかる男の話の方が好きなんだよね(笑)。それで、僕が風俗ライターやめようかな、と思ったのは、編集者に「もっと読者に得になることを書いて下さい」って言われたんですよ。僕らとしてはひどい目にあった方が面白いじゃん、と思っていたんだけれど、編集者や読者ニーズは変わっていて、06年や雑誌も得するとか損しないとかいうことばかりになっていた。

荻上 サイトでも雑誌でも、クーポンとかQRコードと連動とかが当たり前になっていますね。情報の透明化と、媒体のカタログ化が進んできた。

安田 どんどん合理化しているけれど、書く側からは面白くない。今、エロならエロのコアの部分だけでいい、と。これは、アダルト産業すべてに起こっていることで、そうするとライターはいらなくなる。まぁ、ライターだけで食べていくということは他の分野でも難しいことですけれどね。

荻上 しかしそれは、多くのユーザーにとってはいいことだった。自分にとってベストマッチされるニーズになっていったんだから、市場が求めていることですよね。これは悲しむこともできるし、肯定することもできる。年長のライターの方々はコンテンツに思い入れがあるけれど、僕はメディアそのものの便利さなどにも愛着があるため、本には、その両方の思いを乗せてみたかったんですよね。

――市場のニーズが変わってメディアが追従していくのか、それともメディアの変化で市場が変化したのか、どちらなんでしょう?

安田 いいプラットフォームが出来るかという話だよね。受け入れられないとニーズがないということだから。それで消えていたプラットフォームがたくさんあるわけで......。

荻上 ニーズを上手く汲み取ったプラットフォームがさらに市場を拡大していく、という循環運動だけがあるんじゃないでしょうか。99年にできた「動ナビ」はサンプルサイトを紹介することが重大だった。そうした動ナビに多くの人が集まり、サンプル文化がますます成長していった。といっても、動ナビには実は雑誌文化的なところも内在されていて、雑多なニュースコーナーも人気でしたよね。情報が拾われることで数十万人に広がることがあった。

安田 自分のブログも取り上げられたことあるけれど、あそこで紹介されるとえらいことになるんだよね(笑)。

荻上 化け物サイトでしたからね(笑)。本の中で繰り返し書いたのは、一つの理由で産業が変わるということはないのだけど、必ず複数の理由でビジネスを継続していこうとする、ということですね。

安田 あと、エロは状況やメディアの形によって内容がすごく変わるんですよね。例えば、エロ本でもシール留めが義務付けられると表紙に本の内容を全部書いちゃうとか。あまり抵抗しないで、適応していこうというのがエロの業界の基本です。

荻上 まさに適応の好例と悪例の歴史ですよね。ここ20年は不況が続いていて、金がなくても出来るエロというものに最適化した産業がたまたまいくつかあった。廉価なオナカップだったり、無料サイトだったり、上手くいけばタダでできる出会い系サイトだったり。ユーザーマインドと市場の形が循環的にシフトしたんですよね。

――それでは、最後にお二人の今後のセックスメディアに対する向き合い方をお聞かせ頂ければと思います。

荻上 今回は「利用する男側の歴史」、しかも主にマスターベーションに重きを置いたものでしたが、次は出会い系サイトなどでの売春婦調査を元に、性を売る女性の話を書くつもりです。いろいろな書き手の方がこの分野から撤退した今だから、「アフター」の話を書きつらねていきたい。

安田 僕はエロ本には最後までつきあって、死を看取ることになるのだと思いますけれど、そうじゃない方法を模索はしたいんですよね。本当はエロのフィールドから出たくないんだけども(笑)。でも、従来のエロライターみたいなことをやりたければ趣味でやるしかないとは思っています。
(構成=ふじい・りょう)

●おぎうえ・ちき
1981年生まれ。メディアから社会問題まで幅広く調査・分析する批評家。思想系メールマガジン「αシノドス」編集長。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『いじめの直し方』(共著/朝日新聞出版)、『ダメ情報の見分け方』(共著/NHK出版)など。

●やすだ・りお
1967年、埼玉県生まれ。雑誌編集プロダクション勤務、コピーライター業を経て、94年よりエロ系フリーライターとして独立。風俗、AVなどのアダルト系記事を中心に、一般週刊誌からマニア誌まで、幅広く執筆。その一方で、AV監督やハメ撮りカメラマンとしても活動する。主な著作に「デジハメ娘。」(マドンナ社、03年)、『日本縦断フーゾクの旅』(二見書房、04年)、『エロの敵~今、アダルトメディアに起こりつつあること~』(翔泳社、06年)など。

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